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CARDBOX OPENレガシー 決勝: 樋口 裕馬(大阪) vs. 黒川 直樹(千葉)
2017年05月07日(日)23:59
大会・イベント
by Hiroshi Okubo
時刻は20時を回っていた。すでに会場は撤収作業が始まっており、フロアは昼間の盛況ぶりが嘘のように静まり返っている。
祭りの後の静謐の中で、しかしなお、フィーチャーマッチエリアでは最後を飾る最も熱い戦いが始まろうとしていた。
臨むは今宵最後の戦い。相対するは2人のレガシープレイヤー。懸ける想いはCARDBOX OPENレガシーの栄えある初代優勝者の栄冠へ。
野暮な前書きはこのくらいにして、フィーチャーエリアに座す2人のプレイヤーを紹介しよう。
黒川 直樹(千葉)。
関東の強豪プレイヤーとして知られる彼は、これまで「BIGMAGIC Open Legacy vol.1」や「第4期レガシー神挑戦者決定戦」といった中~大規模トーナメントでたびたび決勝の舞台に立ち、そして優勝を逃してきた 。シルバーコレクターと呼ばれて幾星霜。勝利を渇望するあまりに、関東の強豪がはるばる京都までやってきた。
彼が並のプレイヤーを遥かに凌駕する実力者であることは疑う余地もないのだが、だからこそ、彼がこれまでタイトルを手にできなかったことはこのレガシーという魔境で"勝ち切る"ことの難しさを裏付けているともいえるだろう。
そして、黒川はその難しさを誰よりも理解している。ゆえに彼には油断も付け入る隙もない。対戦テーブルに着く彼からは、目の前の対戦相手に対して最大限の力を発揮したうえで勝利を掴もうという力強い気概が感ぜられた。
彼の使用デッキは「グリクシスデルバー」。《師範の占い独楽/Sensei's Divining Top》が禁止され、環境が再び手探りの振り出しに戻った現在のレガシーでは有象無象のデッキが群雄割拠の様相を呈しており、だからこそデルバー系デッキのような"丸い"デッキ選択は肯定される。
緻密なダメージ計算や仕掛けるタイミング、あるいは待つタイミングを見計らう必要があるなどプレイング難度は高いが、黒川ほどのプレイヤーであればそれも些末な問題でしかない。コンボ、コントロール、ビートダウンといずれのデッキに対しても五分に戦うことができるバランスのいいこのデッキで、純粋な実力勝負を挑むことは数々のトーナメントで叩き上げられてきた彼らしいデッキ選択と言えるだろう。
相対するは樋口 裕馬(大阪)。
強豪揃いの決勝ラウンドを勝ち進んできた猛者だ。準々決勝ではEternal Party 2013の覇者・表西 幸次郎を破り、勢いそのままに準決勝では西川 達也の操るUR Delverの火力とカウンターの雨あられを掻い潜り、決勝戦の舞台まで駆け上ってきた関西の強豪だ。
そのデッキ、独創的なカード選択が光る「Omni-Sneak」デッキはその名の通り《騙し討ち/Sneak Attack》、《全知/Omniscience》の2種類のエンチャントを搭載した形の《実物提示教育/Show and Tell》デッキ。《時を越えた探索/Dig Through Time》禁止以降地道に研究されてきたアーキタイプで、《実物提示教育/Show and Tell》→《全知/Omniscience》や《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》といった従来の理想的な動きに加え、素出しの可能なマナ域のカードである《騙し討ち/Sneak Attack》という中間のゴールが設定されていることで勝ち手段がより強固になっているのが特徴である。
デッキ相性はグリクシスデルバー相手に決して良いとは言えないが、樋口には今、何にも勝る勢いがある。トーナメントにおいて勢いというものは非常に恐ろしいもので、これまで目立った戦績のなかった彼がここまで破竹の勢いで勝ち進んできたのはまさに「今日は彼の日」であるということだろう。
どちらが勝ってもおかしくない決勝戦。決戦の火蓋が切って落とされる。
樋口 裕馬(大阪) vs. 黒川 直樹(千葉)
Game 1
先攻の黒川が第2ターンに《渦まく知識/Brainstorm》とフェッチランドの組み合わせで手札を整え、第3ターンに《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》をプレイするスタート。ここまでに《水蓮の花びら/Lotus Petal》をプレイしたのみで動きがない樋口の手の内を探りにいく。
明かされた手札は……
- 《意志の力/Force of Will》
- 《意志の力/Force of Will》
- 《実物提示教育/Show and Tell》
- 《直観/Intuition》
- 《渦まく知識/Brainstorm》
- 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
2枚の《意志の力/Force of Will》と十分なブルーカウント。そして《実物提示教育/Show and Tell》。ほぼ確実にこの《実物提示教育/Show and Tell》は通せそうだが、肝心の"実"がない状態であることが明らかとなった。黒川はこの隙に攻め込まんと、黒川は素早く《グルマグのアンコウ/Gurmag Angler》を戦線に送り込んで樋口に迫る。
樋口は黒川のターン終了時に《直観/Intuition》をプレイ。これに《呪文貫き/Spell Pierce》をプレイする黒川だったが、樋口は《意志の力/Force of Will》でこれを打ち消しながら《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》をサーチ。さらに続くターンに叩きつけられる《実物提示教育/Show and Tell》!
樋口 裕馬(大阪)
これには当然黒川から《意志の力/Force of Will》がプレイされるが、樋口も《意志の力/Force of Will》で応じる。勝負あったか……。
そう思われたが、黒川もそんなに簡単に勝利を譲りはしない。手札から放たれたのは2枚目の《意志の力/Force of Will》! 先の《直観/Intuition》に《呪文貫き/Spell Pierce》をプレイし、樋口の《意志の力/Force of Will》を引き出したのは布石だったのだ。樋口の手札に残された青い呪文はない。つまり、《意志の力/Force of Will》をプレイすることはできない……。
無事猶予を得た黒川は素早く《グルマグのアンコウ/Gurmag Angler》をレッドゾーンに送り込む。ここまでのせめぎ合いで全てのリソースを失っていた樋口にこのゲームを戦い抜く余裕はなく、デッキのトップを確認すると素早くサイドボードに手を伸ばした。
樋口 0-1 黒川
Game 2
第2ゲームは先攻の樋口が《思案/Ponder》で手札を整える滑り出し。1マリガン後ながら、その手札はこの《思案/Ponder》によってもたらされたドローも含めて次ターンには十分にコンボを決められるものだった。
対する黒川は《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》で樋口の手札を覗き見て、その手札に《実物提示教育/Show and Tell》+《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》に加えて《目くらまし/Daze》、《意志の力/Force of Will》があることを確認する。次ターンが佳境と見たか、《Volcanic Island》をセットするのみでターンを返す。
返す樋口は既に《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》で手の内を見られているため、このターンに仕掛ける他ない。ターンが進めば進むほど黒川はマナも手札も潤沢になるだろうし、そもそもカウンターや《陰謀団式療法/Cabal Therapy》を引かれてしまったらそれだけでゲームセットとなりかねない。《水蓮の花びら/Lotus Petal》を絡めつつ、第2ターンに《実物提示教育/Show and Tell》!
黒川 直樹(千葉)
だが、黒川には樋口の攻撃に対して備えがあった。《Volcanic Island》から赤マナを浮かせながら《目くらまし/Daze》をプレイする。
樋口「ひっかかんねえか、やっぱり……」
もしここで黒川が手なりで《目くらまし/Daze》をプレイしたなら、樋口はその手に控える《目くらまし/Daze》で黒川の《目くらまし/Daze》を打ち消すだけで悠々と《実物提示教育/Show and Tell》を通すことができた。しかし、黒川は当然そのことを予期して最善策アンタップ状態の《Volcanic Island》を残しておき、樋口の《目くらまし/Daze》に備えたうえでしっかりとマナを浮かせながら《目くらまし/Daze》で対抗するプレイする。
のだが、最も注意すべきなのはそこではない。黒川は赤マナを出したのだ。つまり――
樋口が黒川の《目くらまし/Daze》に《意志の力/Force of Will》で応じると、黒川からは待ってましたといわんばりの《紅蓮破/Pyroblast》が突き刺さる!!
これによって早くも樋口の手札は1枚――《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》のみとなってしまい、この1枚すらも黒川の《陰謀団式療法/Cabal Therapy》によって奪い去られるといよいよ進退窮まってしまう。
完全にマウントを奪った黒川は手札に蓄えていたクロック、《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》×2、《若き紅蓮術士/Young Pyromancer》を一挙に並べ立て、一瞬の隙も与えることなくそのライフを削り取った。
樋口 0-2 黒川
悲願の初タイトルを手にした黒川が、ともに関東からこの京都の地まで遠征に来た仲間たち――小林 龍海や川居 裕介、土屋 洋紀といった強豪プレイヤーたちへ駆け寄る。彼らもまた黒川を祝福し、関東で黒川の勝利を祈っていた別の仲間たちへ連絡する。
この友情に篤い仲間たちの存在こそが黒川の最大の武器なのかもしれない。彼らは黒川の勝利を自分のことのように喜び、そして今度は黒川を新たな目標として歩みを続けるのだ。彼らの勝利を目指す気持ちに終わりはない。
シルバーコレクターと呼ばれる日々はもう終わりを告げた。
ここに初のCARDBOX OPENレガシーの優勝者の名を刻もう。
CARDBOX OPENレガシー、優勝は黒川 直樹!
おめでとう!!
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